秋野不矩美術館
浜松市の二俣町に、日本画家である秋野不矩(あきの ふく)の美術館があります。
日本画としてより、絵本の挿絵の方が有名かもしれない。
天竜二俣駅から徒歩15分弱。
美術館は少し高いところにあるので、登っていかないといけない。
おお、なんという試練(おおげさ)
この敷地は谷と尾根からなっており、敷地入口が谷にあたって、そこから尾根部分にある美術館に登っていくことになる。
当初は谷の部分に美術館を建てる予定だったが、低くて陰気なところを秋野が嫌がったとかで尾根のところに上げたらしい。
おかげで私の体力が死にそうです。
ヒイヒイ言いながら無事到着。
茅葺屋根っぽいのが両サイドに見えるので日本家屋かと思いきや、真ん中はコンクリートで出来ており庭は西洋的な芝生なので、色々と折衷されているでござる。
入場料は300円だが、このときは特別展開催中は800円だった。
すごい上がったなハードル。
市立美術館にしては強気のお値段設定である。
(美術館公式HPより)
展示室内は驚きの白さ!
中は土足禁止であり、入り口で靴を脱ぐというあまり無い仕様。
秋野の絵の汚れなさと土足は合わないという考えのもと、こうなったらしい。
確かにこれだけ清潔だと土足で上がる気になれませんわな。
(秋野不矩さん。美術館公式HPより)
日本画家としてキャリアをスタートさせた秋野不矩(1908-2001)は、20代で展覧会の賞を取るなど若くから活躍し、エリートコースど真ん中。
その時の作風は官営展示会では受けの良い、王道の雅な和風スタイルだった。
ただ次第に新たな境地を見つけたのか飽きてきたのか、西洋画の手法を取り入れたり、インドに客員教授として飛び込んで現地の厳しい生活や気候を描き出そうとした。
(『渡河』)
インド時代のこの作品は特に印象的で、黄金色が画面いっぱいにギラつき、川まで砂で存分にまみれて、命の水どころか「飲んだら死ぬ」感をガンガンに出している。
その中をスイスイと進んでいく黒い連中は水牛の群れ。中央奥に見える太陽に逆らい向かってパワフルに泳いでいるようだ。
強い。私が現地にいたら3秒で溶けると思う。
(『砂漠のガイド』)
こちらはところどころ地面に白が混じっているが、それで逆に黄色のザラザラ砂粒感があり、見ていて喉が渇く。
タイトルは『砂漠のガイド』なのだが、見渡す限り地平線で果てが無いので、何処か街っぽいところにちゃんとガイドしてもらえるのかとても不安だ。
置き去りにされそう。
容赦のない自然や大地の過酷さが目の前に展開され、その中でどうにか生き抜く生物の力強さを、感想としては受けますな。
そういえば秋野は「救いようのない熱さの中で、わっと泣いている子供を描きたい」とか仰せになっていたらしい。
それ聞いたらアグネスが怒るかもよ?
ちなみに秋野自身も2度離婚しながら子供が6人おり、さらに自宅が2回も火事で焼けている。
自分を追い込み過ぎじゃないですかね(困惑)
(絵本『いっすんぼうし』 福音館書店 出版)
そんな秋野画伯は絵本の挿絵も担当しております。
インドの風景はどこへやら、画風は全く変わって見るからに子供向け。
(絵本『いっすんぼうし』 福音館書店 出版)
ところで絵本って、意外と絵師にとっては難易度が高いらしいのね。
ご覧のとおり、絵の中やすぐ横に文章を入れるスペースが設けられるので、構図上の制限を受ける。
さらに字が読めない小さい子供でも物語の展開が理解できるように、それぞれの絵ごとの繋がりを考えないといけない。
(左のページで姫様が打ち出の小槌を振り、右のページで一寸法師が大きく映し出されて背が伸びたことが察せられる)
(『きんいろのしか』 福音館書店 出版)
なので絵本は高等テクニックが求められるそうですよ。
あとはシンプルな絵だけじゃなくて、子供心を刺激するような華やか・煌びやかな画風も需要がありそう。
絵本『きんいろのしか』では、お得意の黄金色が主人公格の鹿の体で存分に発揮され、異国情緒な舞台も合わさって、子供たちの空想を広げるだろう。
お子様にはぜひ絵本を多く読ませてあげて様々な表現の世界を体験させ、将来ボキャ貧にならないようにしましょうね。
というわけで絵本からインドから、ここでは載せてないけど和風様式まで、様々な秋野の絵画スタイルをバイキング形式(?)でつまみ食いできる美術館でした。
外観と異なり、コンクリうちっぱの2階部分も渋くて良い感じである。
最後に、この看板が面白かった。
「万引き」自体を盗むってどういうことよ・・
シンナーは気体を袋詰めしたのかな?
以上。
【交通手段】天竜二俣駅から徒歩15分
【入館料】300円(特別展開催時は800円)
【滞在時間】60分
【混雑後】★★★(ちらほら)
【URL】秋野不矩美術館/浜松市