放浪美術館
長野県茅野市にある放浪美術館。
「放浪」+「美術」の組み合わせから、タンクトップ一丁でリュックを背負ってオニギリ食ってるオッサンが頭に浮かんだら、それは正解です。
日本全国を旅した画家 山下清を専門に扱っている。
(山下清)
旅絵師というとなんだか気軽そうなお仕事されてますねって感じだが、この人、幼少期に知的障害を患っている。
子供の時は施設に預けられていたが、18歳の時に飛び出して各地を放浪しては、実家や施設に戻ってくるってのを49歳で死去するまでずっと繰り返していた。
一つのところに長く留まっていられないのだ。
画家として有名になる前は、知らない家に押しかけて行って、その家の好意で住み込み働きさせてもらうのだが、数か月くらいで嫌になって突然脱走するというアツい掌返しを連発。
しかも1年くらいでまたその家に戻ってくるのだから、厚顔無恥と言うか神経図太いというか。家人もよく許したな。
幼少期から入っていた施設「八幡学園」へは脱走→1~2年して戻る→数日から数か月したらまた脱走、を繰り返した。渡り鳥の営巣地か。
学園側も辛抱強くこのタンクトップを見守っており、戻ってきたときは放浪中に起こった出来事を日記につけさせた。
だから放浪していたにもかかわらず、山下清の履歴は残っているわけだ。
偉いぞ、八幡学園。
しかし美術館の入口、建物の古さも相まって私は一瞬廃屋かと思いましたがね(失礼)
茅野駅からアクセス悪い(徒歩30分近くかかる)けど、結構お客さんいたな。
それも山下清を現役で知っている年配の方々。
まぁタクシーで来たんでしょうな。
入口の床にはオニギリが転がっています。
山下清は大食漢だったらしいが、オニギリのイメージはドラマから来てる模様。
とりあえずデブにはオニギリ持たせとけみたいな偏見があると思います(真面目)
さて入館すると、山下清の絵画をベースにした絵ハガキがもらえます。
何種類もあるので、そこから1つ選べるよ。
山下清といえば貼り絵なんですけどね、ペン画ですねこれ。
どうしてこれ選んだのか私。まぁこれも良いのだけれど。
山下は八幡学園に入所してから貼り絵を教わったそうな。
その出来が凄まじくズバ抜けていて、15歳の時に展覧会まで行われて大評判になった。神童レベル。
ただ成人になるにつれて製作から離れ、本人も放浪してどっか行っちゃった。
世間が完全に忘れ去った頃の1954年に朝日新聞が「あの神童は今いずこ?」と特集したをのキッカケに「山下清をさがせ」が各地ではじまり、全国に名が知られるように。
(山下清『草津温泉の野天風呂』この美術館には無かった気がするが、代表作)
放浪して八幡学園に戻ってくると、日記と一緒に貼り絵を製作した。 知的障害ではあるが、記憶力は抜群に良かったようで、旅先の出来事をちゃんと覚えていてそれを再現。
色紙を細かく千切って貼ってを繰り返して、この絵を製作しているわけです。
美術館で本物を見ると切り貼りの跡が見え、手間暇めちゃめちゃ掛けてるのが分かって結構なインパクト。
また山下が生きた時代はちょうど戦前戦後に跨っているので物資も厳しく、色紙も8色程度しかないのだが、新聞紙を引っ張って来たり、色紙も表と裏で微妙に色が違うのでそれを生かして微妙な濃淡を表現するなど、工夫は様々。
という膨大な作業に感心しているところ悲報ですが、この絵の中には小便をしている子供が描かれています。
フリーダムな時代だったので、温泉の付近で小便どころか大便をしてた連中がいたと、山下は記録している。
んでそれを画用紙の上で再現しようとして周りの大人に怒られたため、大便は諦めたが小便は描いてしまったということである。
たぶん温泉地でも大喜びで見てたんでしょうね、子供って多かれ少なかれそういうの好きだからね。
(山下清『東京の焼けたとこ』)
障害を持っているため、戦争へは従軍しなかった。
食糧難の時代だが、陸軍に弁当を供給している店に住み込みの職を得られたので、食べ物に困らなかったという珍しい生き延び方をしている。
一面焼け野原で、黒焦げになった死体が物と一緒に転がっている。
ファミコンとかフリーゲームのドット絵と似たような見かけだが、こうした単純な絵柄の方が、より無慈悲な感じがして悲劇には合うと私は思ってます。
(山下清『長岡の花火』)
花火が好きだった、というか娯楽の数少ない時代だから、花火は一大イベントでしょうな。
上掲は長岡の花火を描いた有名な作品だが、諏訪湖の花火も製作していて、それが美術館に置いてあります。
というわけで多くの貼り絵を見られるなかなか無い機会なのでした。
展示解説もやってるので、参加してどうぞ。
山下清は放浪先であまりにも様々なことをやったりやらかしたりしていて、それも各地方ごとにあるから、この美術館オリジナルネタもあるかもしれません。
ちなみに私が好きな話は「甲府駅で下半身露出して警察の御用になった」と、「辰野駅あたりで、暑いという理由で全裸になって線路を歩き、新聞記者に写真撮られた」の2本です。
(館内出口にある骨董品ショップ。画像は公式HPから)
美術館を見終わると、併設されている骨董品ショップに出る。
たぶん元はこちらが本業なのだろう、凄まじい数の商品が置かれていて、ボーっと歩くと何か落として割りそうなほどの密度である。
以上。
【交通手段】茅野駅から徒歩30分
【入館料】800円
【滞在時間】60分
【混雑度】★★★★(すぐ横に人)
【URL】