サントリー白州蒸留所
サントリーのウイスキー「白州12年」が2018年6月から発売休止となり、全国に白州難民を生み出してから久しい。
美味しいですからね、 日本人向けらしいサラッとした甘さやフルーティさがある。
パワプロでいうと「キレ〇」「クイック」「軽い球」といったところか。
そんな白州を諦めないマン達が「蒸留所なら飲めるのでは・・」と一縷の希望を抱きつつ、本能のまま赴くのが山梨県北杜市にある白州の蒸留所です。
1時間に1本程度で更に冬季は運休だから、飲みたい一念だけでやってくる白州難民が吹雪にまみれて行き倒れる事件が相次いでますので、訪問の際は事前のチェックを怠らないように。
バス内では入場申込書を記入することになる。
住所や年齢など基本情報のほか、「なぜ白州蒸留所に来たのか」「白州ブランドの素晴らしさについてどう思うか」「マッサンは駄作」など幾らかの踏み絵があり、この尋問を乗り越えないと入場は叶わないので慎重に回答しよう。
白州蒸留所に到着すると、入場門で受付をしてから場内に入ることとなる。
場内には蒸留所のほか天然水の工場もあり、ガイドツアーが行われているのだが、いずれかのツアーに申し込んでおくことが入場の条件となっている。
当日いきなり訪問すると受付でかなり待たされる可能性があるので、事前にツアー予約しておくほうが吉。
私は断然ウイスキーのツアーに行きたかったのだが、白州Loverがたくさん訪問しているのでかなり人気があり、特に夏場は2か月先くらいじゃないと空席が無い感じ。
一方で天然水ツアーはわりと余裕があったのでそちらにした。
蒸留所、(の)みたかったなぁ。
天然水ツアーまで時間があるので、場内にあるウイスキー博物館を見るとしよう。
建物自体はサントリー山崎蒸留所にあったキルン(ウイスキー原料である大麦を乾燥させる伝統的な施設)を復元しているそうな。
場内は自由に見学できるが、1時間に1本くらいでガイドツアーも開催されている、20分程度。
最近内装が変わったそうな。
右手に見られる大きなポットスチルや左手奥の樽の山が蒸留所らしい雰囲気を醸し出していて楽しい。
1Fではサントリーウイスキーの歴代ライナップが紹介されている。
国産の本格ウイスキーは1929年にサントリーが初めて発売し、以後さまざまな製品をデビューさせて日本の洋酒業界をリードしてきたのだ。
熟成に10数年掛かるウイスキー、その間に利益は一切生んでくれないし作っても売れるか分からないので博打性の高い分野。
その頃のサントリー(当時の社名は寿屋)は赤玉ワインのヒットで安定した経営をしていたが、ウイスキー進出はその安定性をぶっ壊して破産レベルの費用が掛かるから、みんな反対していたにも関わらず創業者 鳥井信治郎の「やってみなはれ」精神で自爆覚悟のチャレンジが始まった。
開発はのちのニッカ創業者である竹鶴政孝を招いて山崎に蒸留所を設けて行われ、最初の商品が1929年デビューの、この白札。
多大な投資が掛けられた、その成果の1作目であるが、ウイスキー慣れしていない当時のジャパニーズからは「煙ったい」として敬遠され、無事爆死。
苦労が報われるのは1937年角瓶の発売まで待たなればならなかった。
その間、サントリーは経営が圧迫されて主要事業を売り払ったり創業者の奥さんが病死して絶望状態になったり戦争が始まったりと散々な状況だったが、鳥井信治郎は12年モノの原酒を上手くブレンドして日本人好みの味を作り出す。
さらにウイスキーの綺麗な琥珀色をアピールするためにガラス瓶を採用、斬新なデザインは切り小細工から発想を得た。
これがヒットして以降、サントリーは多様な商品を開発し、ウイスキー業界をリードしていった。
今日、角として発売されているウイスキーは日本ウイスキー全体の偉大なご先祖なのだ。まぁ高級ウイスキーがじゃんじゃん出来ている時代なので、今では安酒の部類だが。
唐揚げ+角ハイって致死率200%くらいだと思うの。
てか展示されている瓶、なんで飲みかけなんですかね。
社員が我慢できずに飲んでしまったのだろうか。
アンクル・トリスで見覚えのあるトリスは1946年と戦後直後の発売で、暗く落ち込む国民のため安価で飲めるウイスキーとして活躍。
「トリスは平社員、課長は角」みたいなキャッチフレーズがある。私は半兵衛でみた。
ウイスキーのカラーいろいろ。
熟成度合いや使用する樽によって様々に変化するのだ。
左はアメリカンオーク樽で2010年から貯蔵されたもの。
右はスパニッシュオークで1997年からだ。
左のほうが熟成年数が短い分だけ色も薄いが、アメリカンよりもスパニッシュオークのほうが色が強く出るという特徴もある。人生いろいろ、樽もいろいろ。
あと味についてはアメリカンは甘くバニラっぽい風味、スパニッシュはコクが強く苦みやドライっぽさも出る、らしい。
色が濃すぎて、瓶に張り付いているラベルがもう読めないのもあるよ。
煮出しすぎた麦茶かな?
白州12年は「休売」の文字が寂しく記されているのでした、チーン。
これもハイボールが飲まれすぎているのが原因なので、次の原酒が確保できるまではしばらく焼酎ハイボールに差し替えた方が良い。
差し替えたところで課長も部長も気づかないだろうから大丈夫だと思うよ。
しかし中間価格帯の12年が休止になってしまったので、今あるのは安価なノンエイジか、高価な18年overになってしまった。
白州愛好家は18年モノを垂涎して横目で見つつ、ノンエイジを飲むという鬱屈した行為を当面は迫られるかもしれない。
おとなしく別のウイスキー飲めばいい話ではあるが。
無料ガイドツアーは1Fのみなので、2F以降は自由に見ましょうね。
ここからはウイスキー自体の歴史や過去の用具を扱っている。
・・と思ったら、これはワインの圧搾で使われた機具なんだそうな。
国産ワイン用ブドウの筆頭マスカットベリーAの開発者、川上善兵衛が用いていた用具。
サントリー創業者の鳥井信治郎は、赤玉ワインを強化するため国産ブドウの開発を狙っていたところ、川上善兵衛と提携して彼の抱えていた負債を肩代わりするかわりにサントリー社員にブドウ栽培技術を教示してもらったのだ。
赤玉ワインで得られた収益は、ウイスキー開発への最重要な資金源であったし、ヒーロー枠としてここに飾っているのかもしれない。
ここは錬金術師の部屋。
鋼のなんたらこうたらでは無くて、アルコール蒸留技術は錬金術師が発見したからだ。
8世紀ペルシャでのことで、それが大陸中に広まった。
酒の情報は広まるのが早い(確信)
これが古典的な蒸留器、とはいえ現在も仕組みは一緒である。
錬金術師は蒸留によってあらゆる物質から純金が取り出せると考えていたらしい。
結果的に、純金と同じくらい画期的なものが出来たから良いんじゃないですかね(笑顔)
中世スコットランドやアイルランドでは蒸留酒を「生命の水」とまで呼んでるくらいだ、なんだか楽しそうですね君ら。
蒸留技術について説明展示が様々あるのだが、説明役は何故かお茶の水博士である。
まぁ手塚キャラはサントリーに関わらず色んな企業とコラボしているので、これもまた営業活動の一環だろう。
ちなみに「ウイスキー」なる人物もいるそうな。
このジオラマはスコットランドにおけるウイスキー密造の現場である。
17世紀に英国に併合されたスコットランドへは、英国政府から重いウイスキー税が課され、密造に走るものが続出。
政府はガンガン取り締まろうとしたが、やればやるほど密造が増え、「むしろ減税したほうが密造が減って効率的に課税できるのでは」と思いついたのは19世紀のことであった。
ウイスキー製造者と愛飲家には暗い時代である。
「ややややってしまったあああ」
そんな光景を崖の上から覗き見ているデスパレートな妻たち。
たぶん官憲に密告すればそれなりの報酬がもらえたのだろう。
本場スコットランドは大麦で作る一方、新大陸はトウモロコシやらライ麦やらがあちこち実ったので、それを利用して蒸留をしている。
ウイスキーメーカーの古い広告、ポスターというかガッツリ装飾されていて、レトロ感が味わい深い。
なお私は今このアーリータイムズを飲みながらこの記事を書いています。
今日では存在しないメーカーも含めて、レトロなウイスキー瓶が置かれていますが、どうしてどれも飲みかけなんですかね。
この博物館の館員はもう少しガマンを覚えたほうが良い。
そういえばアメリカでは1918~1933まで禁酒法という法律があり、アルコールの製造や販売が全面的に禁止されたという、たいへん酷い時代があった。
しかし酒は薬用の効果もあると考えられていたので、医者が認めればウイスキーゲットが可能だったのだ。
そこでこのような薬用ウイスキーが存在した。
先生、私も頭が痛いので処方してください(二日酔い)
突如キラキラ空間となったが、サントリーが1955年以降に展開しだしたトリスバー。
名前通り、平社員の酒であるトリスをはじめ様々な洋酒を取りそろえ、仕事帰りのサラリーマンに一杯引っかけて行ってもらう酒場である。
今もそうだが、バーってオシャレなので慣れない人には敷居が高いから、一般ピーポーでも気軽に来られるように設計されている。
バーっていうよりパブなのではないか。
こんな容器もあったけれど、何の用に使うのだろう。
ウイスキーのドリンクバーにでもするのかな?
展示室は2~3Fとあって、その上は展望台になっている。
景色はこんな感じ。
南アルプスの山々に包囲されておりますな。
これで博物館おしまい。
場内には他にお土産売り場・レストラン(昼は混む)、そしてサントリーの扱う様々なウイスキーが試飲できるバーがある。
こちら。
立ち飲み席が多いけれど、4人くらい用の座席も2か所ある。
蒸留所ツアーや博物館の展示を見て我慢できなくなった大人たちが、がやがや集まって飲み比べをしております。
試飲は有料ですが、1つ100円~500円程度と、価格はそれほどではない。
サントリー傘下のビームサントリー社が世界各地の蒸留所を保有しているため、国産以外に海外のメーカーのものも含まれています。
しかし蒸留所限定のほうに目が行くよね。
白州モノだと、なんとニューポットがあるのだ。
熟成する前の未完成の原酒だが、興味深いので速攻で選択した。
左がニューポット、右側は高価なので滅多に飲めない白州18年です。
白州自体が希少になっているから、700mlで5万とかアホな値段で転売されている。
ニューポットは樽の色がつく前なので、水のような透明だ。
口元に近づけると、ボキャ貧なので説明ができないが「飲んだら死ぬ」とラベルの貼られた理科室の薬品のように強烈な香りがした。
フルーティさの欠片はあるが、強烈かつ粗々しすぎて、あまりそそられない。
「熟成前の原酒は猛々しい若武者だ」と例えられることがあるが、意識高すぎる新卒社員は扱いが厄介である。
おかげで18年の方の印象が記憶に残っていない。
1杯の量は15mlと微量ですが全部ストレートで出てくるので、慣れていない人は慎重に飲もう。
あなた自身が蒸留機になる必要はないのだ。
さて天然水工場のツアー時間になった。
工場は少し離れたところにあるのでバスで移動するのだ、とはいえ2分くらいで着くが。
工場内では天然水製造のビデオが壮大な音楽とともに流されたり、プロジェクションマッピングが華々しかったりと、お子様でも見ていて楽しい仕様となっている。
これは「南アルプスの天然水」のラベル拡大版だそうな。
よく見るとバーコードリーダーまで載っている。
どでかいですが読み取るのは可能です。
工場の模様。
水を詰めてるところは衛生面の問題で見られませんがね。
ペットボトルを段ボール詰めしたりラベルを巻くラインだった。
ボーっとしばらく見ていられる光景だが、残念ながらこのゾーンに居られるのは数分なのだ。
面白かったのはペットボトル。
これです。
さっきのに空気を入れて膨らませると、我々が手にするペットボトルになるんだと。
すごい小さい状態から始まるので、輸送に便利だそうだ。
工場を見終わったら、天然水の試飲をして終わりです。
ウイスキーはありません、無念。
でもヨーグリーナ美味しいよね。
以上
【入場料】無料(ツアーごとに別料金あり)
【滞在時間】3時間
【混雑度】★★★★(すぐ横に人)
【URL】